みなさんが思い浮かべる近代建築のイメージは何だろうか?
(近代建築の定義は難しいのだが、本サイトでは明治から戦前までの建物としてみたい)
私の勝手な考えでは煉瓦造の建物が、そのイメージに合致するのではないだろうか。
現代でも煉瓦を気にして街を歩いていると結構街なかにも残されている。建物全体が煉瓦なだけでなく、例えば塀だけ床だけなどなど。
今回はそんな煉瓦の楽しみ方をお伝えしたいと思う。
→ 2020-06-27更新 煉瓦画像追加
→ 2020-12-01更新 煉瓦画像・文追加
他の【近代建築の楽しみ方】シリーズは↓↓↓
→ 【近代建築の楽しみ方】ガラス編
→ 【近代建築の楽しみ方】タイル編
→ 【近代建築の楽しみ方】金属天井編
日本の建物に煉瓦が取り入れられてきたのは幕末頃からだが、最初は反射炉や、工場、倉庫、要塞など産業・軍事的な建物に使われたらしい。その後大阪の造幣局を設計したウォートルスなどが銀座煉瓦通りなどを作り商店や住居などにも普及してきた。
ただし、関東大震災で煉瓦造の建物の脆弱性が露呈してから鉄骨、鉄筋、コンクリート造に移行していったようだ。(現在まで幾度の地震にあっても生き残っている煉瓦造の建物もあることから、煉瓦造全てが地震に弱いとの判断は乱暴な気もするのだが。。)
さて、煉瓦好きならよく知られていることではあるのだが、煉瓦には煉瓦自体にその製造元を示す刻印が押されていることがある。これをみると製造元や製造年代などがある程度特定できるのだ。
私自身は煉瓦好きになってからの月日が短いので、刻印は数種類しか把握していないのだが、煉瓦好きな方が煉瓦刻印まとめを作ってくださっており、こちらを利用することで効率的に製造会社を特定することができる。
たとえば、大阪市にある難波宮の敷地には昔、陸軍の施設があり、現在は空き地になっているのだが、注意深く地面をみてみると何個か煉瓦が落ちていた。これをみてみると刻印が2種あった。
×印は岸和田煉瓦、もう一方は日本煉瓦のもののようだ。
通常刻印面は接着面にあたるため刻印をみることはできないのだが、煉瓦の積み方によってはみることができるので注意深くみてほしい。とくに通常の視点では見れない塀の上部や接着面がズレている箇所など。
また、煉瓦は製造元の所在地から遠く離れた地で使われていることもあり、それを見つけるとその煉瓦の分布を感じられるのでおもしろい。中にはかなりレアな刻印もあり、それを見つける楽しみもある。
是非、煉瓦を見つけたら刻印をチェックしてみてもらいたい。
煉瓦というものは煉瓦1つのみでは意味をなさず、複数の煉瓦を積み上げて多種多様な建物を構築していくところがおもしろいところでもある。
大規模な建築物であれば、その煉瓦の数は数万個にも及ぶと言う。
その煉瓦の積み方の代表的なものにはイギリス積み、フランス積みと呼ばれるものがある。
明治32年に出版された建築学の本にそれぞれの積み方についての説明があったので紹介したい。
○長手及小面
煉瓦の長面壁面に顯出するものを之を長手と謂ふ即ち第五圖のハハの如し又煉瓦の一端壁面に顯るものを之を小面或は扣取と稱す即ち同圖の二二の如し
○煉瓦疊式
煉瓦疊に二様有り甲を英吉利積(イギリス積)、乙を仏蘭西積(フランス積)といふ。英吉利積は一層都て長手にして其上下の一層は小面なるか如く長手の段と小面の段と交互に積むものなり。又仏蘭西積は一段中に長手小面と交互に並列する積方なり、即ち第六圖は英吉利積にして第七圖は仏蘭西積なり。唯半枚積の壁は雙方の疊方に属せず悉く長手積にすべし。又場所により悉く小面積にする事あり、例えば急なる圖形の部は小面積を宜とす
また今も見ることができる煉瓦建造物の中から、それぞれの積み方のものを1つずつピックアップしてみた。
今回、この記事を書くにあたって自分の手元にある煉瓦建造物の写真を確認してみたのだが、ほとんどがイギリス積みでフランス積みはほとんど無かった。調べると煉瓦が日本に入ってきた頃はフランス積みが多く、その後イギリス積みが主流になったようである。
また、この2つの積み方以外にも、たとえばトンネルや橋のアール部分など立体的な曲面で積まれていることもある。
煉瓦が落下しないことが不思議でしょうがないのだが、どのような設計をするとこのような積み方ができるのか。すごい技術だ。是非間近で確認してみて欲しい。
以上のように煉瓦はいろいろな積み方で建築物を構成していくのであるが、当然ながら、その煉瓦と煉瓦はお互いを接着させる必要がある。
その接着には接着剤としてセメントや石灰が使用された。接着剤分の厚みがどうしてもあるため、構造物の表面にその接着剤部分が筋のように表出するのだが、この部分を目地と呼ぶ。
この目地の仕上げにもいくつか種類があり、ここでも代表的なものを紹介したい。
煉瓦面より一段沈む。一番一般的なタイプ。
かまぼこのように中心が丸く盛り上がる。見た目が美しい。一番技術が必要で手間のかかる最高品質なタイプ。
特にキレイに仕上げようとしていない。意図的なのか技術が足りてないのか不明なタイプ。
目地ひとつとっても「この建物は覆輪目地だから結構手をかけた建物なのかな」とか想像しながら見ることできて楽しい。
煉瓦は大規模な建造物に使われているイメージがあると思うが、それだけでなく実は小さな建造物にも煉瓦は使われており、その例をいくつか挙げてみたい。
古い煉瓦には、たまに縦線がはいっているものがある。
手動で木枠に入れて整形した際についた痕とか、煉瓦を切りとる際についた痕とか言われているが、確定した説はないらしい。昔は製造会社も多く製造に従事した人も多いだろうが理由が伝わっていないのもミステリーだ。
まあ、あれこれ考える楽しみが増えるのでいいのだが。
煉瓦は土を焼いたものだけと思っていないだろうか。実は戦前くらいまで木で作られた木煉瓦というものが利用されていた。
建造物というよりは道路や工場、運動場、停車場などの床に敷き詰めて使っていたようだが、大正時代の建材カタログにも木煉瓦の項目があり、次のような優れた点があったと紹介されている。
木煉瓦の優れた点
- 衛生的なること
- 耐久性の強きこと
- 修理容易なること
- 抵抗力少きこと
- 清掃容易なること
- 騒音を発せず快威を興ふること
- 工場等に於ては温度を調整し又職工の疲労を減じ為めに能率一般に増進すること
- 火災に安全なること
以前、ある大阪の古写真イベントで90代のおばあさんとお話する機会があり、「戦前は木煉瓦が普通に道路に使われてた」と教えてくれたことがあった。
この様に戦前は結構ありふれた建材であった木煉瓦。現在では見かけることもなく、すでになくなったと思われているが、実は今でも古い建物の敷地に残っていることがある。大変貴重で、その中からいくつか紹介したい。
また、木煉瓦のもう1つの使われ方として、煉瓦造の建物の窓や扉周辺にポイント的に置かれ、扉などを取り付ける際の金具を打ち込む先として利用されている。煉瓦自体には金具を刺すことは難しいため、その部分のみ木にしているのだ。
以上、煉瓦についてあれこれ述べてきたが、建物をみる際少しは気になるようになったのではないだろうか。
是非ともレアな煉瓦をみつけて楽しんでもらいたい。
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赤煉瓦と言えば辰野金吾が思い浮かぶが、実は赤煉瓦風のタイルが貼られているものもあるようだ。。この本によると、まだまだ、訪れることができてない煉瓦建築が多く紹介されている。残っている間に、はやくいろいろと行ってみたいものだ。。
前半は海外の煉瓦建築についての話なのだが、後半の「明治・大正・昭和のれんがを語る」鼎談辺りから俄然おもしろくなる。ただ煉瓦建築の写真を眺めるだけでなく、煉瓦職人や日本での煉瓦の歴史とかを深く知ることができるため勉強になる。
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