近代建築から使われ出した建築材はなんだろうか。
タイル、煉瓦、モルタル、人造石なんかを思い浮かべるが、もう一つ「ガラス」がそれにあたるのではないか。
恐らく近代以降に建築に取り入れられたものであると考えられるし、実際そうなのだろう。
一般的に建築材としてのガラスとなると、窓ガラスが一番に最初に頭に浮かぶのだが、実はそれだけではない。
他にも色々な使われ方があるのだが。。
近代建築の楽しみ方シリーズ。前回は「煉瓦編」お送りしたが、
今回は「ガラス」についてお話ししたいと思う。
他の【近代建築の楽しみ方】シリーズは↓↓↓
→ 【近代建築の楽しみ方】煉瓦編
→ 【近代建築の楽しみ方】タイル編
→ 【近代建築の楽しみ方】金属天井編
ガラス関係の文献をあたるとコップや器などの工芸品のガラス(ぎやまん)は戦国時代に西洋人から日本にもたらされ江戸時代には日本でも盛ん作られていたようである。
一方、建築用のガラス(板ガラス、ステンドグラスなど)は幕末に外国から手吹き板ガラスが輸入され、明治時代に本格的に普及しだしたようである。
それは近代建築だけでなく和風建築でもそうであり、かなりのパラダイムシフトが起こったものと考えられる。
従来日本では光を室内にとり入れる方法として和紙(障子など)が使われていた。和紙は和紙なりに利点があり現在でもつかわれていることからも優れた建築材だ。
しかしガラスは和紙にない下記のような強みがある。
和紙が建築材で使われる一例として障子があるが、基本的に部屋の中で使うものであり、例えば雨や雪の際にその侵入を防ぐのは障子ではなくて雨戸になる。
当然雨戸は透明ではなく光を通さないため部屋の中は暗くなる。
しかしガラスは光も通すし雨戸代わりにもなる。
これがガラスが建築に使われだした一番の理由ではないだろうか。
建築用ガラス(内装含む)に限って取り上げるが、実は窓ガラスだけでなく色々な箇所にガラスは取り入れられている。私なりに分類してみたのでご紹介したい。
一般的に思い浮かぶ窓に使用される板ガラス。
昔は手吹きによる手作業で作られていたのと、運搬時に割れやすいことから大変高価で、手作業ゆえ品質にばらつきもあった。
今でも近代建築に残る板ガラスをみると、波打っていたり、歪んでいたり、気泡が入ったりしていることがあるが、それが古さの判断基準にもなる。
また、表面に凹凸がある型板ガラスや、白く濁ったような曇りガラス、結晶のような模様がつく結霜ガラスなど、透明なガラスだからこその「光は通すが外部から見られやすい」点に対処し、目隠し効果を高めたものもある。
また、お多福ガラスと呼ばれる、小さい板ガラスを組み合わせ、一つの大きな窓に組み上げたものもある。この工夫は、一枚ものの大きなガラスが高価であった事情もあるし、破損時の被害を最小限に抑える、一部を曇ガラスにし外部からの光・視線を調節する、という効果もあり、戦前の旅館や住宅などによく使われた。
教会などでお馴染のステンドグラスだが、住宅や会社、公共施設などの建築にも使われていた。
絵柄も日本古来のものから西洋風のものまで様々で飽きない。
個人的趣味としては全面を色付きのステンドグラスで覆うだけでなく、余白を無地のガラスにする感じが好きだ。
下記は、分類的にはステンドグラスに含めていいか微妙なところ。。
正確にはステンドガラスに使われる細かい色付きのガラスも色ガラスなのだが、こちらでは単色で一枚のガラスを構成するものを色ガラスとしたい。
昔は洋食屋、牛鍋屋などに派手で目立つということで使われていたらしい。しかし現存する建物をみると寺院や学校建築にも使われていて、ある時代流行ったものと思われる。
パッと見はフィルムが貼ってあるようだが、色がついたガラスだ。
結構好きなガラスが、この舗道窓ガラス。
近代建築を巡っていると結構な確率で地下室が存在していて、その地下室に対して舗道側から明かりをとり入れるためのもののようだ。
電気が普及した現代ではあまり用いられないと思うが、好きな趣向。
中々地下室側からこのガラス部分を見ることはできないのだが、大阪の生駒ビルヂングでは見ることができて、貴重な体験だった。
ガラスといえば透明で光を通すことが特長と思うが、この特長を最大限活かしたのがアトリエや写真館の明かりとりガラスだ。
最初に紹介した板ガラスではあるのだが、広範囲にガラスを大量に使用することに特長があるので別種類とした。
写真を撮影するにしても、絵を描くにしても明るい光が必要で、電気の光をそこまで強くできない時代にはアナログ的に光を取り込む必要があったのだろう。
また講堂や工場など暗くなりがちな広い空間を、一度に照らしたい場合にもガラスが利用されている。
建築ガラスとして含めていいのかわからないが、近代建築で時折みかけるので、ある時期流行ったのではと考えるが、水屋で竹の代わりにガラス棒を敷いていることがある。
確かにこれに水を流すとガラスの透明感から涼しげで向いていると思う。現代でも採用したらいいのに。。
照明や内装のオブジェのようなものにもガラスは使用されている。昔ながらの行灯ような和紙を通した光でなくガラスを通した光も良い感じだ。
関連展覧会
→ 「ラリック・エレガンス展」が、そごう美術館で2020年7月8日まで開催中
→ 「建築をみる2020東京モダン生活東京都コレクションにみる1930年代展」が、東京都庭園美術館で2020年9月27日まで開催中
現代では見慣れているガラス。
でも、昔もこんなにもバリエーションがあって面白かった。
これから建物をみる際に少し気になるようになったのではないだろうか。
是非とも町中に残るガラスの歪みや色、凸凹をみつけて楽しんでもらいたい。
以上。
他の【近代建築の楽しみ方】シリーズは↓↓↓
→ 【近代建築の楽しみ方】煉瓦編
→ 【近代建築の楽しみ方】タイル編
→ 【近代建築の楽しみ方】金属天井編
故酒井一光さんの著書。氏の著作はタイルもそうだが近代建築の色々な楽しみ方を教えてくれる。この本は窓に焦点を当てたマニアックな内容。それだけに内容は濃くておすすめ。
超美麗なステンドグラス写真が豊富。既に存在しない建物や改装中の建物もあり貴重。また巻末の藤森照信氏による日本のステンドグラスの歴史についての文章が勉強になる。小川三知とか木内真太郎について詳しく記されている。
2021年9月25日
【瀬戸内海】遊郭跡も残る大崎上島の木江をまち歩き2021年9月12日
今も残る泰山タイルを探す日々【美術装飾タイル】2021年6月16日
岡山の江川三郎八建築を巡る2021年2月10日
【近代建築の楽しみ方】タイル編2020年12月12日
【近代建築の楽しみ方】煉瓦編2020年12月1日
【近代建築の楽しみ方】ガラス編2020年11月14日
イケフェス大阪おすすめ近代建築マップ[ミナミ編]2020年10月26日
イケフェス大阪2020プログラムまとめ2020年10月24日
イケフェス大阪おすすめ近代建築マップ[船場編]2020年10月21日
【近代建築の楽しみ方】金属天井編2020年8月26日
【まち歩き】岡山県倉敷市玉島【近代建築】2020年7月3日
【伊賀の近代建築を巡る】後編「明治の学校建築やら警察署やら」2020年7月1日
【伊賀の近代建築を巡る】前編「煉瓦橋やら銭湯やら」2020年7月1日
江戸東京たてもの園をゆく第3回「歴史を感じるセンターゾーン」2020年6月30日
江戸東京たてもの園をゆく第2回「住みたくなる西ゾーン」2020年6月30日
江川三郎八 建築マップ[岡山編]2020年6月30日
展覧会|”江川式”擬洋風建築 江川三郎八がつくった岡山・福島の風景|岡山県真庭市2020年6月27日
江戸東京たてもの園をゆく第1回「看板建築好きが泣いて喜ぶ東ゾーン」2020年6月22日
【書評】建築のテラコッタ - 装飾の復権2020年6月2日