古い建築が好きな私みたいな者には聖地のような場所がいくつかあるが、その代表格の一つが江戸東京たてもの園だ。(ちなみにもう一つの代表格は博物館明治村)
私は大阪在住ということもあり、関東方面はあまり攻めてはいないのだが、こちらにやっと来ることができた。
事前の情報では、好物としている看板建築が多くあり、そのうえ銅板貼でもあるとのことで楽しみでしかない。
まずは、江戸東京たてもの園の簡単な説明であるが、公式サイトより概要を引用してみたい。
当園では、現地保存が不可能な文化的価値の高い歴史的建造物を移築し、復元・保存・展示するとともに、貴重な文化遺産として次代に継承することを目指しています。
また、たてもの園はゾーンが三つに分けられており、それぞれ特徴をもった展示がなされているようだ。
私個人の印象としては、店舗建築、看板建築など真っ先に解体されがちな、庶民的なまち並を構成していた建物が多く移築されている印象であり、大変好感がもてる。
どうやら、私の好物の看板建築は東ゾーンとのことらしい。まずはそちらに足を進めてみたい。
看板建築!看板建築!と言っておきながら最初は農家。気持ちが先に進んでいたせいかこちらの撮影画像がほとんどのこっていなかった。
農家に関しては関西に二大展示施設がある。大阪の日本民家集落博物館と 奈良の大和民俗公園だ。ここで展示されている建物たちと比べると、天明家は大きくそして小綺麗だ。農家も厩とか色々と面白いので、いずれこちらもレポート化したいと思う。
これまた面白いのが。柱っぽいのはあるが柱として用をなしているのか、洋風な装飾として人造研ぎ出し手技で作られていると思われる。
何とか洋風なものを取り込んでみようというのが、日本人っぽくて好きなのだ。明治以降作られ出した西洋建築の町なみへの影響がみてとれる。
こりゃすごい。銅板から紋章のような装飾とか、基本洋風なのに手摺とか破風のような上部とか魅力的な建物だ。築地本願寺が少し思い浮かんだ。昔はこんなのがごろごろ町なかにあったのだろうか。うらやましい。。
こりゃまたすごい。荒物屋でここまで凝った外観にする必要があったのだろうか。銅板も網代や鱗?っぽいの含め幾種類もの貼り方が駆使されていて見飽きない。側面も銅板、ガラスにしてるとは好きだね。これは。
外観は人研ぎと銅板の組み合わせが珍しい。よく目を凝らすと生花店にふさわしい植物の浮出しのある銅板もある。こういうのは撮影した画像を拡大してみると気付くことがあるから、帰宅してからでも楽しめる。
店内は一部モザイクタイル使い。生花店ということから水回りに強く、みためにもハイカラなタイルが使われたのだろう。
前面タイル貼。戸袋にもタイルとはこだわりを感じる。
店内はその収納棚の迫力に圧倒された。左側の薬箪笥のようなものは筆を収納する棚のようだ。こちらには地下室もある。
鰹節よりタバコのショーケースに目が行ってしまうのです。それもタイルに。マーブルのぷっくりタイルはたまにみるたるだが、やはり美しい。
タバコのイラストもテキストもtobaccoでなくてcigarettesなのが素晴らしい。元々はこの店舗にあったものでなかったかもしれないな。
京都辺りには今でもありそうだ。小脇にある、防火用水には屋号のタイル。
防火用水もいろんなバリエーションがあるな。
店内に目が行きがちだが、雨樋や手摺など凝ったつくりで、屋号がさりげにあるのも忘れずにチェック。
店内の商品の並べ方や什器なんかも長年、仕事されてきていた時代を感じることができて想像力を掻き立てられる。
贅沢なガラス使用に時代の変化を感じる。ガラスは風や冷気、ほこりを防ぎつつも光を通す性質から建物の設計に一大変化をもたらした部材だろう。昭和30年代でも、農村民家の台所にガラスを導入して住環境を近代化しようとした教育映画をみたことがある。
たてもの園の中で唯一の銭湯建築だ。銭湯もタイル好きということがきっかけで好きになった。
→ 2020-06-22更新 江戸東京たてもの園で銭湯を特集した展示があります。子宝湯の展示もあります。「ぬくもりと希望の空間 ~大銭湯展」2020年9月27日まで。
下足場には九谷焼のタイル絵。今でも古い銭湯にいくとたまに見かける。
浴室に入ると、関東風の特徴があるのがみてとれる。
まず、壁にペンキ絵で富士山。関西ではめったに見ない。富士山はなくモザイク画が基本だ。
また、浴槽が奥側の壁にくっついているが、関西は男湯女湯の間の仕切り壁に浴室がついたり、浴室の真ん中にあることが多い。さらに大阪でよくあるタイプとして浴槽前に段があり、そこに腰かけ体を洗ったりすることもできる。
いいね。何かこんなところで飲み食いできたらおいしいだろうな。現代でも営業していたら価値は高まっていたのではないか。
こういう建物の方が時代は古いのに、看板建築より町には残っている。
交番も明治以降にできたものでタイルや煉瓦など当時の先端素材で作られているものが多い印象だ。持ち送りの装飾も凝っているではないか。全体的にかわいらしい色使いで警察官の威厳は保たれていたのだろうか。
手摺や屋根の形がメルヘン。そこに日本の鐘という組み合わせがいいね!
銅板建築といえば、現代人はこの錆びた緑青の印象なのだが、新築当時は全く今と違い、いわゆる金ピカ状態だったと思うと、今のこの町なみと当時とでは全く印象が違う可能性がある。緑青になる前提だったのか。
それは、現代人は時代のたった古こけた仏像を良いと思うが、やはりこちらも作られた当時は、金ピカないし派手な色が塗られていた痕跡があり、それが良しとされていたと、同じように。
実のところ、こういった町なみが懐かしい世代ではない。むしろ懐かしくない世代からすると作り手の個性が出まくっている、これらの建物が普通に町にあった時代を無性に羨ましく感じるのだ。無味乾燥で画一的でシンプルな現代の建物ばかりで育ってきたからなのか。
以上。
大満足の中、第2回「住みたくなる西ゾーン」へつづく
なぜかポーランド人が東京の古い店構えの建物をイラスト化。看板建築や銅板建築がいっぱいです。日本人でも知らないとこばかりだよ。
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