【書評】建築のテラコッタ - 装飾の復権

【書評】建築のテラコッタ - 装飾の復権
公開:2020/05/27 更新:2020/06/02

この図録はLIXILギャラリー(旧伊奈ギャラリー)で1983年に開催された建築のテラコッタ展に合わせ出版されたものだ。

私自身タイルという言葉は聞き馴染みがあったのだがテラコッタという言葉は聞いたことがなかった。

図録の中にはこのテラコッタの意味についての次のような記述があった。

テラコッタの語源は、「テラ」と「コッタ」で焼いた土、つまり土を焼いたもの、ということのようですね。

ええ。そう伺っております、ラテン語というか、イタリア語で。

かなり大雑把な意味だが土の焼き物ってことで理解した。

次項から図録内容について述べていきたいと思う。

→ 他の書評一覧:LIXILギャラリー閉廊の報を受けて【図録紹介】

→ 建築のテラコッタ - 装飾の復権(Amazon)


図録の目次

  • 写真構成 テラコッタ建築めぐり
  • TERRA-COTTA MAP OF JAPAN
  • テラコッタ再考
    • 座談会 花のいのちは短くて・・・? - 近代建築史のなかのテラコッタ
    • アメリカ建築とテラコッタ - アメリカ近代建築史余話
    • 帝国ホテルとテラコッタ
    • よみがえる装飾のために - テラコッタ遍歴を終えて
  • コラム
    • 世界のテラコッタ彫刻
    • ワグネル先生記念碑
    • メダリオンの型取り - 旧建築会館
    • 木内克のテラコッタ

図録の最初にはテラコッタが使われた建築がマッピングされた全国マップが紹介されている。ただ当然ながら調査は出版日以前の1982年11月のようだ。

特に大阪と東京が多くマッピングされていて、その中から44もの建物がモノクロ写真と解説文付きで紹介されている。

私は大阪に居住しているため現存する近畿圏の近代建物はある程度把握しているつもりだが、こちらで紹介されている建物の何件かは2020年現在存在していない。
約38年ほど前の情報なので致し方ないが悲しい現実だ。。

テラコッタのある建物

図録内で紹介されている写真をそのまま載せるわけにもいかないので、同じ建物で私が撮影したことのある中かいくつかを紹介したい。

京都府立図書館

武田吾一設計。常滑の黄色い煉瓦で有名な久田吉之助の製造したテラコッタが使用されている。久田吉之助のところには一時期美術タイルで有名な泰山タイルの池田泰山がいたことがあるらしい。知らなかった。

京都府立図書館:全体
京都府立図書館:全体

京都府立図書館:アップ
京都府立図書館:アップ

弥栄会館

木村得三郎設計。

弥栄会館:全体
弥栄会館:全体

弥栄会館:アップ
弥栄会館:アップ

大阪倶楽部

安井武雄設計。安井はテラコッタ好きで知られ東洋的装飾は満州赴任時の中国建築の影響が指摘さている。

大阪倶楽部:全体
大阪倶楽部:全体

大阪倶楽部:窓周り
大阪倶楽部:窓周り

大阪倶楽部:メダリオン
大阪倶楽部:メダリオン

建築陶器のはじまり館( INAXライブミュージアム)

常滑にある建築陶器のはじまり館(INAXライブミュージアム)では、図録に載っていても今では解体された建物の一部が保存展示されている。

建築陶器のはじまり館:野外展示:名古屋銀行協会
建築陶器のはじまり館:野外展示:名古屋銀行協会

建築陶器のはじまり館:野外展示:大阪ビル一号館
建築陶器のはじまり館:野外展示:大阪ビル一号館

建築陶器のはじまり館:野外展示:自治省庁舎
建築陶器のはじまり館:野外展示:自治省庁舎

建築陶器のはじまり館:野外展示:建築会館
建築陶器のはじまり館:野外展示:建築会館

建築陶器のはじまり館:野外展示:大谷仏教会館
建築陶器のはじまり館:野外展示:大谷仏教会館

建築陶器のはじまり館:野外展示:朝日生命館
建築陶器のはじまり館:野外展示:朝日生命館

ここに紹介したもの以外にも多く展示されており、常滑までこれを見に行く価値はある。

テラコッタ再考

本文の中で専門家達が近代建築史の中でのテラコッタについて座談会を行っていて、現在の建築テラコッタがどのように普及して衰退したかが話されている。

元々、古くからヨーロッパなどでテラコッタは利用されてはいたが、いわゆる現在の建築用テラコッタが多く利用されたのは1875年から1930年のアメリカの鉄骨高層建築の表面を被覆するためだったとのことだ。

1871年にシカゴ大火などの大規模火災が発生しており、その復興のため鉄骨高層建築が作れ始め、それに使えるように軽く、そして燃えにくいテラコッタが利用されだした。

これは意外だった。ヨーロッパあたりに中世とかでと思っていたのだが近代アメリカで流行したとは。合理的思考に合致したのだろう。

この流れで大正から日本にも普及しだしたようだが、使われたのは戦前くらいまでで期間は短いものであった。

また、おもしろい話として日本ではテラコッタ製造は儲からなったそうで、次の理由が述べられいる。

どうもテラコッタでは、各社とも儲けてはいないようなんですね。なぜかというと、日本の建築家には同じものは使っていただけない。アメリカのように標準化・規格化ということを考えてもらえない。みんなそれぞれオリジナル。それでだいぶ損をしました。(笑)

使いやすく合理的で安価に作るより、建築家としてのプライドが強いというか、本当の意味の近代化にはなっていなかったようである。

そののち戦争がはじまり、装飾的なテラコッタや建築家のプライドより合理化が優先される建物が増えていった。テラコッタは建物を覆わなくなったし、あったとしてもそれは大型タイルに置き換えられていくことになった。

現代の均質化したタイルやコンクリートで覆われた建物が何と味気ないことか。。ある意味手仕事的な非均質化した作りが価値をもってきている気がするし、テラコッタではないが大型タイルとか他の形として復権する気がしないでもない。

まだ、かろうじて当時のテラコッタ建築は残ってはいるが、最近解体などの悲しい知らせもよく聞く。これからも何とか残っていってもらいたいものだ。。

余談:マインクラフトという世界的ゲームの中にもテラコッタが

最後に、完全に図録の内容から話が逸れるが、テラコッタについてWEBなどで調べてみるとマインクラフトという世界的なゲームの中でテラコッタというアイテムがあるようで、それに言及したWEBページが多く出てきた。

マインクラフト:ゲーム画面
マインクラフト:ゲーム画面

マインクラフトとは次のようなゲームだそうだ。

Minecraft(マインクラフト)は、マルクス・ペルソン(通称 Notch)と彼が設立した会社、Mojang ABの社員が開発したサンドボックスビデオゲームである。日本では「マイクラ」と略称され、サバイバル生活を楽しんだり、自由にブロックを配置し建築等を楽しむことができる
- Wikipediaより

つまりこの「ブロックを配置し建築等を楽しむ」のブロック部分の一部がテラコッタのようなのだが、より詳しく調べてみると、図録で言及されているテラコッタというよりも象嵌タイルに近い気がする。特に次のリンク先で説明されている彩釉テラコッタなどは。

Minecraft Wiki:彩釉テラコッタ

旧ハンター邸:象嵌タイル
旧ハンター邸:象嵌タイル

何れにしせよ、世界的な人気のゲームの中でテラコッタという言葉やアイテムが使用されていて面白く感じた。

機会があればやってみたいと思う。

以上


建築のテラコッタ - 装飾の復権


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