みなさんは、「金属天井」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
恐らく近代建築好きの人でも聞いた事がある人は少ないのではないか。そもそも、私もつい3年前まで知りもしなかった。。
今回は、そんな金属天井を【近代建築の楽しみ方】シリーズ第四弾として紹介したい。
他の【近代建築の楽しみ方】シリーズは↓↓↓
→ 【近代建築の楽しみ方】煉瓦編
→ 【近代建築の楽しみ方】ガラス編
→ 【近代建築の楽しみ方】タイル編
本題にはいる前に、あなたは「天井はなぜ必要か?」と考えたことがあるだろうか。
実のところ、私も考えたことなかったのだが、数年前に読んだ藤森照信氏の「天下無双の建築学入門」という本の中で「天井の存在理由<天井>」という項があり、はじめて意識したのだ。
本から一文を引用する
天井はどうしてあるんだろう。
あらためて考えてみるとよくわからない。屋根は雨を防ぐため、柱はその屋根を支えるため、壁や障子は部屋を仕切るため、ドアー、床、畳、いずれも用途は誰でもしってるとおり。ところが天井は、何の役に立っているのかはっきりしない。なくてもすみそうだし、事実、私の生まれ育った田舎の茅葺きの家なんか、囲炉裏の上方を見ると、太い丸太梁が走る黒々とした小部屋の空間がムキ出しになっていたし・・・<中略>・・・屋根や床や壁なんかと違って、なくなったってどうってことない。
なるほど、確かに昔の民家をみてみると天井というものがない。そもそも平屋で2階というものがなかったということもあるだろうし、囲炉裏などの煙がこもってしまうという弊害もあったろうから天井がなかったのだろう。
そんなことがあって、私は少し天井を意識して建物をみるようになった。
では、なぜ天井の中でも金属天井をとりあげて記事にするのか。
それは近代建築が多く作られた明治から昭和初期の一時期によく用いられた建材であるからに他ならない。
金属天井も、過去の近代建築の楽しみ方シリーズで紹介した他の建材(煉瓦、ガラス、タイル)と同じく最初は海外からの輸入、後に国産化し日本国内に普及した。
しかし、戦争による原材料不足や、なるべく装飾を排除するモダニズム建築が台頭してきたことから用いられなくなった。
私は近代建築が作られた期間によく用いられた装飾的なデザインや建材に魅力を感じるので、これについて取り上げて記事を書いてみようと思った。
では、私と金属天井との出会いはいつなのか?
それは、3年ほど前、大阪にある源ケ橋温泉という銭湯に行った時だ。(注:先日、正式に廃業されることが決定したとの報を受けた。。残念)
私は銭湯好きでもあり、当時はなるべく古い趣が残っている銭湯を好んで行っていた時期で、その日は昭和12年築で登録有形文化財にもなっている源ケ橋温泉を訪れたのである。
銭湯に行くと他のお客さんが裸でいるので、当然、屋内の写真は撮ることはできない。なので、いつも内装やら浴槽、扇風機、タイルなんかを目に焼きつけるように、じっくりと目を凝らして見るようにしている。
この時も、浴室やロッカー、鏡なんかに目を向けていたのだが、ふと目を上に向けると、素晴らしい装飾のある天井が目に入ってきた。
それは、いわゆる日本建築の格天井で、その各格子の中に、四角線と円を組み合わせた幾何学的な模様の装飾が施されていた。
最初は、表面のマットな質感と幾何学的な模様から「漆喰でよくここまでできるな、すごい。」と思ったのだが、番台にいたご主人とお話していると「金属ですよ」と言われ「何、そんなものがあるのか」と衝撃を受けた。
私は、この一件以降、近代建築の中に入る機会があれば、必ず天井を見上げ金属天井かどうかを確認するのが癖になってしまった。
といっても最初は金属天井についての知識はほぼなかった。
ということで金属天井について文献を調べた。
運良く、国立国会図書館がウェブサイトで公開している書籍画像の中に、大正時代の建材型録というものがあり、そこに金属天井の頁をみつけた。
それが次の画像になる。
この頁には金属天井の定義、用途、特長が記載されていたので、抜き出してみると次のようになる。
金属天井
金属天井の優美堅牢にして且つ施工上簡易至便なる特質は、今や広く我建築界に認識普及されまして○近洋風建築にして金属天井を用ひられぬ處はないと申しても敢えて過言ではありませぬ。
金属天井の用途
金属天井は銀行、会社、商店、ビルヂング、公会堂、図書館、学校、倶楽部、劇場、食堂、其他あらゆる建築物に於ける各室及廊下の天井に使用すれば、極めて美術的に高尚にその建物の価値を高め、しかも他の天井(漆喰天井、木製天井)に比して堅牢無比であります。
金属天井板の特長
金属天井板は純良なる○○を材料とし、其面に美麗なる種々の模様を打出してそれに錆止めを施したのでありますから、耐久力は全く永久的であります。而して其特長とする所は
- 設計によって高雅優美な図形を自由に造り得ること。
- 漆喰又は木製の天井に比して非常に軽く絶対に亀裂や剥落の慮がない事。
- 防火的である事又湿気を吸収する慮がなく且つ木製天井の如く隙間から塵芥などのお落つる憂ひがなく最も衛生的である事。
- 取扱が至便で施工が極めて迅速に行はれる事。
- 価格が比較的低廉で且つ経済的である事(塗替が幾回でも出来て其都度新しき天井となる)
昔の言い回しで少しわかりにくい部分もあるが、私なりに要約すると次のようになる。
美しく高級感のある複雑な装飾を手軽に・安く天井に施すことができる。おまけに防火性も高く、さらに塵や湿気によって痛むこともない。木や漆喰に比べ亀裂や剥落が起きにくく塗装を塗り直せば新しい状態になるためメンテナンス性も高い。
当然、建材型録であるので宣伝文句がならんでいて「本当か?」と思う箇所も多々あるが、概ね「金属天井とはどんなものか」は理解できたかと思う。
現役の天井として使われている以上、それを取り外して間近でみるわけにもいかず、遠目からを見ただけでは、それが金属天井であるのか、そうでないのかの判断はなかなか難しい。
先述の建材カタログから、当時の取扱い会社がわかったので、軽い気持ちでインターネットオークションで検索をかけたところ、なんとドンピシャ、昭和3年頃のものと思われる金属天井専門の商品カタログをみつけたので落札し入手してみた。
それが次に紹介する画像になる。
さらに商品カタログの中をみてみると、様々な金属天井のパターンや施工例が載っていた。
そこで、ちょっと考えてみた。
「この資料に載っているパターンと同じものが使われてる建物はないだろうか?」と。
ひとまず文献・資料などから金属天井ということが確定している広島県松永の旧丸山商店の金属天井のパターンを商品カタログから探してみた。
そうすると、なんと全く同じパターンが載っていることがわかった。それが次の画像。
感涙ものである。
気を良くして、他の金属天井と疑わしき建物のパターンを探したところ、兵庫にある甲南病院の天井と同じパターンのものもパンフレットに載っていることがわかった。
ということであれば、金属天井と疑わしき天井は、そのパターンをこの商品カタログで確認すれば、ある程度金属天井との判断がつくのではと考えた。
次に、この判断方法を元に、今まで私が撮影してきた建物で、恐らく金属天井ではないかと判断した建物を紹介したいと思う。
実際に私が訪れた建物で、これは金属天井ではないかと思われる建物を撮影した画像で紹介したいと思う。(文献等から確定しているものも含む)
※注意:この中には漆喰装飾天井としてネット上で言及されているものも多く、私の判定が間違っている可能性もあります。その点ご了承ください。
また、肉眼では確認したが撮影できなかったものや、私以外の方がネットで公開している画像から、金属天井と判定できるものを挙げると次のものになる。
前述のように、いくつかの金属天井の画像を並べて眺めてみると、「これ金属天井じゃない?」という特徴が、なんとなくわかってくる。
その特徴から、私なりの金属天井の見分け方を確立したのだが、それを挙げると、次のようなものになる。
上記に当てはまると、私は、ほぼほぼ「金属天井」という判定を下すが、最終的には所有しているカタログで同じパターンがないかを確認して確定になる。
※当然、あくまでこのカタログに載っているものに限る。。
近代建築好きでも、普段あまり意識していない「金属天井」。
今回の記事で「金属天井がどんなものか」はわかっていただけたと思う。
近代建築の楽しみ方シリーズも、煉瓦、ガラス、タイルときて今回の金属天井。ますます近代建築を楽しめる体になってきたことだろう。
私はこれからも金属天井を探していくし、みなさんも金属天井をみつけたらTwitterなどで教えていただけると、ありがたい。
他の【近代建築の楽しみ方】シリーズは↓↓↓
→ 【近代建築の楽しみ方】煉瓦編
→ 【近代建築の楽しみ方】ガラス編
→ 【近代建築の楽しみ方】タイル編
看板建築という言葉を作ったことでも有名な藤森照信さんの著書。今回の記事にあるように「天井の存在理由<天井>」であるとか「ステンレス流し台が座敷を駆逐<台所>」、「かくして雨戸は嫌われる<雨戸>」、「我が家の境に塀は要るか<塀>」などなど建築に関する違った視点を与えてくれる良書です。いつもおもろい本書くなあ。
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